研究レポート
松下電器産業の社名と商品ブランド統一に関する分析
(企業イメージ調査「マインドシェアランキング」から)

統一は合理的な選択

松下電器産業(以下松下)は2008年1月10日、社名と商品のブランド名を「パナソニック」に統一すると発表しました。その理由を大坪文雄社長は記者会見で、「全社員の力を"パナソニック"に集中することが重要だ」と述べています(読売新聞の報道による)。
なぜ松下はブランドの統一を必要としたのでしょうか。「よみラボ」が実施している企業イメージ調査「マインドシェアランキング」のデータの分析からは、その理由が明確に読み取れます。

分析方法と主な項目
企業のブランド力を「総合力」「個性」「文化・スポーツ」の要素から見る

今回分析に使用したのは、「社会に貢献している企業」、「良い広告を出している企業」、「安定性がある企業」、「環境活動に熱心な企業」、「信頼性がある企業」、「個性がある企業」、「尊敬できる企業」、「文化・スポーツを推進している企業」、「成長力がある企業」の9系列です。

まず、この9系列に対して統計的な処理(主成分分析)を行うことで、企業のブランド力を示す要素を3つに絞り込みました。
第1は「総合的なブランド力」(以下総合軸)、第2は「企業の個性度」(以下個性軸)、第3は「文化・スポーツ度」(以下文化・スポーツ軸)です。
分析結果では、総合軸ではトヨタ自動車が1位で、松下電器、キヤノン、ホンダ、東京電力の順に続いていました。
個性軸では、ソニー、キヤノン、ソフトバンク、ホンダ、ユニクロが、文化・スポーツ軸では、サントリー、キリンビール、コカ・コーラ、旭化成、東芝がトップ5でした。

主成分分析とは
多くの要素からなるデータを合成して、全体像を把握できる新データに変換する手法。例えば、野球のチーム防御率、被本塁打数、エラー数、盗塁数、打率、長打率、本塁打数、犠打数、得点数、出塁率などのデータから「総合力」、「投手力」、「打力」といった指標を作る際に利用されている。
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分析結果1
「ナショナル」「パナソニック」は商品ブランド?企業ブランド?

では、松下のブランドイメージは、この3つの要素にどう現れたのでしょうか。



上記の表にあるように、最大の特徴は、総合軸で「松下電器」のほか、「ナショナル」、「パナソニック」が上位に入ったことでした。こうした企業はほかにありません。
調査は、選択肢から選んでもらうのではなく、思いついたままに企業名を書いてもらう手法(純粋想起)で行っています。
今回は企業イメージ調査ですから、本来は回答として「トヨタ」、「ソニー」といった企業名が求められています。「カローラ」や「ウォークマン」といった商品ブランドの回答は求められていません。
にもかかわらず、「ナショナル」、「パナソニック」が数多く現れたということは、この2つが商品ブランドの範囲を超えて、企業全体のイメージを背負っていることを示しています。これは両ブランドとも、幅広い製品に統一的につけられたブランドであることや、広告宣伝等でも、「松下」よりは「ナショナル」、「パナソニック」をより強く打ち出してきたためと思われます。
この調査結果を、「3つもの強力なブランドを抱えている」と見るか、「ブランドが拡散し、全体としての力が落ちている」と見るかで、評価は変わります。実際には松下はブランドの統一に動きました。現状がむしろ、弱みだと考えていたのです。
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分析結果2
「特徴がない」のが特徴

複数のブランドを持つこと自体は珍しいことではありません。例えば、トヨタ自動車はトヨタのほかに高級ブランドの「レクサス」を持っていて、主に海外で大成功を収めています。ターゲットに応じ、ブランド戦略をがらりと変えているわけです。

そこで、次のステップとして、松下の3つのブランドについて、個性軸と文化・スポーツ軸を比較しました。例えば、「ナショナル」は個性が強いブランドと認識され、「パナソニック」が文化やスポーツイメージが強いブランドと認識されていれば、複数ブランドの存在理由はあるといえるでしょう。結論からいうと、両軸に照らす限りでは、3つのブランドの差はほとんどありませんでした。



上の図は、X軸に個性軸をY軸に文化・スポーツ軸を取って、各ブランドの位置を示したものです。右にいくほど個性が強いブランド、上にいくほど、文化・スポーツイメージが強いブランドということになります(なお、グラフの中央部を見やすくするため、グラフを一定のところで切っています。個性軸トップのソニー、キヤノン、ソフトバンクや文化・スポーツ軸トップのサントリーはこのグラフに納まっていません)。
さて、「松下」、「ナショナル」、「パナソニック」の位置を見ると、すべて原点近くに集まっています。3つとも、それほど個性が強いわけでも、文化やスポーツと結び付けてイメージされているわけでもありません。この意味で、「特徴がないのが特徴」といえるかも知れません。
商品ブランドとして調査すれば、別の結果があり得るのでしょうが、少なくとも企業ブランドとしての3つの差異は「ほとんどない」といえそうです。
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分析結果3
統一後の取り組みに注目

分析からは、松下3ブランドには①企業ブランドと商品ブランドの境界が明確でない、②3ブランドの間に明確な差異がない――という消費者の認識が示されているようです。

ブランド統一は必要であり、合理的だといえるでしょう。
ブランドが統一前の現状でも、総合軸で「松下電器」は2位でした。このことは、統一後のブランドが相当に強力なものになり得ることを示唆しています。今後の取り組みに注目したいと思います。

(T・S)
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補足解説
分散共分散行列による主成分分析について

今回の研究で活用した分散共分散行列による主成分析について解説しましょう。



▼第1主成分はすべての数値が大きなプラスを示しており、ブランドの総合力を示していると考えられる。

▼第2主成分は「個性がある」、「良い広告を出している」のプラス幅が大きい。「良い広告」という言葉の意味はあいまいだが、企業の主張やスタンスが消費者に説得的に示されていると解釈した。このため、この主成分は企業の個性度を示した指標と位置づけた。

▼第3主成分は、「文化・スポーツを推進している」のプラス幅が、取りうる最大値の1に近く、特徴がくっきりでている。なお、第3主成分までで累積寄与度は92・8%に達しており、元データの情報量は第1~3主成分にほぼ集約されている。
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